ひこつしんけいまひ
腓骨神経麻痺とは、総腓骨神経が圧迫または損傷されることにより、足関節や足趾の背屈障害(いわゆる「下垂足」)や、足背から足趾背側にかけての感覚障害を呈する末梢神経障害です。主な原因は、交通事故などによる外傷であり、特に膝外側部(腓骨頭部)の打撲や腓骨頭骨折に伴う外部からの圧迫が代表的です。総腓骨神経は膝外側にて腓骨頭を回り込むように走行し、皮膚直下に位置するため外力の影響を受けやすく、神経麻痺を起こしやすい解剖学的特徴を有しています。診断には、神経伝導速度検査や筋電図検査が用いられ、神経損傷の部位や程度の客観的評価が行われます。また、腰椎椎間板ヘルニアや腰部の神経根障害など、類似の症状を示す疾患との鑑別診断も重要です。
実例1 後遺障害等級認定 14級9号(術中損傷による腓骨神経麻痺)
歩行中に自動車と衝突した交通事故により、脛骨および腓骨の骨幹部を骨折しました。観血的骨接合術が施行され、髄内釘が挿入された際に腓骨神経を損傷し、軽度の腓骨神経麻痺を合併しました。これにより、足背外側および下腿外側に痺れが残存しました。筋電図および神経伝導速度検査の報告書上には明らかな左右差が認められず、神経系統の障害が他覚的に証明されたとはいえないことから、12級13号の評価には至りませんでした。しかし、局部に神経症状を残すものとして、14級9号が認定されました。
実例2 後遺障害等級認定 14級9号(腓骨神経麻痺に見えるが椎間板ヘルニアによる神経根障害と鑑別された例)
腓骨骨頭骨折後に膝の痛みが残存した症例です。骨折部の骨癒合は良好であったことから、膝の痛みの直接的な原因とは考えにくい状況でした。しかし、治療記録を精査したところ、主治医が腰部MRIを撮影しており、その画像により神経根が椎間板ヘルニアにより圧迫されていることが判明しました。この所見は、被害者の訴える膝の痛みと解剖学的に一致しており、腰椎の神経根障害による症状として解剖学的整合性が認められたため、事故による神経症状の残存が医学的に説明可能であると判断され、14級9号が認定されました。このように、主治医が画像診断に至った背景や意図を読み取り、事故との医学的因果関係を的確に把握することも極めて重要です。