解除条件の成就によって失効した訴訟上の和解と再訴の可否
解除条件の成就によって失効した訴訟上の和解と再訴の可否
訴訟上の和解は、民事訴訟法第267条により確定判決と同一の効力を有しますが、和解内容に解除条件が付されている場合には、その条件が成就したときには、和解は遡及的に効力を失うと解されます(民法第127条の類推適用による)。
このように、訴訟上の和解が解除条件の成就により失効した場合には、和解によっていったん確定していた従前の訴訟物に関する権利関係について、再度訴訟で法的に争うことが可能になります。もっとも、このとき期日指定申立てにより旧訴訟を再開すべきか、それとも新たに訴訟を提起することが可能かという点で学説上争いがあります。
最高裁判所の判例では、旧訴訟の原告が、訴訟上の和解の解除後に提起した別訴について、民事訴訟法第142条の二重起訴の禁止に抵触しないものとして適法と判断しています(最高裁昭和43年2月15日判決・民集22巻2号184頁)。この判例に照らす限り、訴訟上の和解が解除条件の成就により効力を失った場合にも、旧訴訟とは別に新たに訴えを提起することが適法であると考えられます。
一方で、和解の失効後においては、旧訴訟における訴訟状態や訴訟資料を維持・活用すべきであり、また、解除条件の成就の有無については、和解を成立させた裁判所が判断すべきであるとして、期日指定申立てにより旧訴訟を再開する手続を原則とすべきであるとの見解も存在します。
たとえば交通事故訴訟においては、大腿骨頸部骨折後、一定期間を経て骨頭壊死等の理由により人工関節置換術が必要となる可能性があるなど、将来的に後遺障害が増悪することがある程度予見される場合に、訴訟時点では置換術が未実施であることを前提として、解除条件を付した訴訟上の和解が締結されることがあります。
しかしながら、解除条件が成就するのは事故後相当期間を経過した後であることが多く、そのような場合には、和解時の訴訟記録の保存期間や人的変更等を考慮すると、期日指定申立てによって旧訴訟を再開する実効性は乏しく、実務上は新たに訴訟を提起する方が実態に即した対応であると考えられます。
(ちなみに、旧訴訟時に予測できなかった後発後遺障害については、判例は、旧訴訟が明示の一部請求であるとして、旧訴訟確定判決の既判力は新訴訟に及ばないと判断しており、そもそもこの場合の旧訴訟と新訴訟の訴訟物は異なるとする立場をとっています(最判昭和42年7月18日・民集21巻6号1559頁)。)